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日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響

日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響

「monopsony」が日本経済の歪みの根本にある

東洋経済オンライン 2020/06/18 5:30

デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長

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monopsony(モノプソニー)とは、労働者を雇う会社側の力が強くなりすぎ、労働者が「安く買い叩かれる」状態を指します(詳しくは「日本人の『給料安すぎ問題』はこの理論で解ける」をご覧ください)。

 

モノプソニーの問題は、単に労働者に支払われる給料が不当に安くなるということだけではありません。さまざま論文では、モノプソニーの力が強く働くようなると、国の産業構造に歪みが生じ、生産性が低下し、財政が弱体化するなど、多くの問題が生じると論じられています。

 

つまり、労働力を安く買い叩くことは、巡り巡って経営者自身の首を絞めることにもつながるのです。

 

このような状況に陥らないための方策として、「小規模事業者の統廃合」「中堅企業の育成」「最低賃金の引き上げ」が有効であると考えられています。

(中略)

企業が継続的に輸出をするためには、高い生産性が求められます。例外はありますが、高い生産性を実現するには一定の規模が必要です。ドイツの研究によると、輸出をするためには平均して160人前後の規模が必要だそうです。

(中略)

また、商工会議所が2020年3月に実施した調査で、テレワークの導入率は従業員数300人以上の企業の場合57.1%、50人以上300人未満の企業が28.2%、50人未満だと14.4%となっています。規模が大きい企業ほどテレワークが可能なのに規模の小さい企業が多いという、構造的な弊害を確認することができます。

 

輸出も、研究開発も、社員教育も、規模が小さい企業ほど実現できていない傾向が顕著に見られます。

(中略)

日本では、モノプソニーの力が強まりやすいサービス業が中心の産業構造になったところに、セーフティーネットの整備もしないで、非正規雇用者を増やすよう規制緩和をしてしまいました。これが、モノプソニーの影響が増大した主因だと分析されています。

 

この政策が招いたのが、産業構造のさらなる歪みであり、国民の貧困であり、生産性が世界第28位に低迷するという結果なのです。

 

モノプソニーの力が働くと、企業は本来よりも過剰な利益を稼ぐことになります。しかし、企業に生じるメリットは、労働者が被るマイナス分よりも小さいとされています。結果として、個人消費の減少を招き、国の税収も低減してしまうので、社会全体に大きなダメージが生じるのです。

 

振り返ってみれば、労働市場を緩和し、非正規雇用を拡大したときが転換点でした。あのとき、企業の力が強くなりすぎないように、同時に最低賃金を引き上げる政策を打たなかったのが、決定的なミスだったのです。

 

今回のコロナとは関係なく、日本の中長期的な将来を考えれば、企業の統廃合を進め、ドイツのように中堅企業と大企業で働く労働人口の比率を高めることが求められます。このようにモノプソニーの力を抑える産業構造を実現するためには、継続的な最低賃金引き上げが必要なのです。

 

最低賃金を段階的に引き上げて、モノプソニーによって生じている歪みを修正するしか、国民生活の回復はないと思います。